ボンボリガーデン takemotojoe’s blog 竹本穣

ミュージカル(台本と歌)、朗読劇、人形浄瑠璃

ミュージカル 「ノンシャラン駆け落ち道中」

f:id:takemotojoe:20200531160740j:plain


#おうちでミュージカル

 

[ミュージカル脚本]

ノンシャラン駆け落ち道中

 作・曲/竹本穣

 

 

【登場人物】 

ヒカル(男子)/カオル(女子)

マサル(男子)/執事宮本

臨席者(若干名)

黒服の男たち(7名)

寮生女子(7名)

シスターA/シスターB 

 

 

  1 はなはだ神聖な

 

  教会の中、祭壇らしきもの、中央の高みに十字架、左右にマリア像。場内ゆったりとした教会音楽が弱々しく流れている。舞台前面は中央を割って椅子が並び臨席者が座っている。最前列に新郎マサルが座っている様子。そして厳かな、きまずいような空気の中、神父が掌に人の字を書いて飲みながら現れる。

 

神父 はじめに新婦がお父様とご入場なさいますので、皆様ご起立してお迎えください。

 

  荘重な音楽とともに新婦カオルと新婦の父が舞台袖から現れ、中央をあるいて来る。新郎が立ち上がり、新婦を迎え、二人並んで立つ。

 

神父 賛美歌三百十二番「いつくしみ深き」をサンギョウいたします。

 

  オルガンの前奏。臨席者はあらかじめ渡された紙をもって歌う。

 

(歌1)一同

♪ いつくしみ深き友なるイエス

  罪咎憂いを取り去りたもう

  心の嘆きを包まずのべて

  などかはおろさぬ負える重荷を

 

  いつくしみ深き友なるイエス

  かわらぬ愛もて導きたもう

  夜ごとのわれらを捨てさるときも

  祈りに応えていたわりたまわん

  アーメン

 

神父 どうぞご着席ください……これからご結婚にあたりまして、お二人に誓約をしていただきます。(新郎に)あなたはこの姉妹と結婚し、神の定めにしたがって夫婦になろうとしておられます。あなたはそのすこやかなときも病むときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命の限りかたく節操を守ることを約束なさいますか?

マサル 約束します。

神父 (新婦に)あなたはそのすこやかなときも病むときも、これを愛し、こいつを敬い、こいつを慰め、こんな野郎を助けてそ の命の限りかたく節操を守ることなんて約束できねえよな!……

 

  新郎新婦、顔を見合わせる。臨席者も騒然。

 

神父 さあ、行くぞ(とカオルに)

マサル いったいなんのつもりですか?

神父 なんのつもり? おまえこそなんだ。

マサル ぼ、ぼくは新郎です。

神父 こっちはシンプだ。

マサル ふん!

神父 おやおや随分甘やかされて育った坊ちゃんだこと。お気に召さないとすぐ拗ねてあ そばせなさる。

マサル なんだとーっ。

 

  拳骨を振り上げるマサルに神父がフーッと息を吹きかけると、マサルはたじろぐ。神父の扮装を脱ぐヒカル。

 

カオル ……ヒカル君……どうしたの、いったい……

 

  「サウンド・オブ・サイレンス」のイントロが流れてくる。

 

ヒカル (口ずさむ)ハロー・ダークネス・マイ・オールド・フレンド……

マサル ちくしょう、『卒業』のテーマじゃないか。

カオル そうさ、卒業も卒業、卒業式さ。

 

  臨席者一同いっせいに立ち上がり、観客席に向かって直立不動の姿勢になる。

 

臨席者1 入学式の春、

臨席者2 上級生のお兄さん、お姉さんに連れられて、

臨席者3 桜の咲く校門をくぐったのも、

臨席者4 ついこの間のように思い出されます。

臨席者5 あのころあんなに大きく感じられたランドセルも、

臨席者6 いまではまったく感じられません。

一同 感じられません!

臨席者7 目をつぶるだけでも、

臨席者8 いろいろなことが思い出されます。

臨席者9 みんなで力を合せてがんばった、

臨席者10 秋の運動会。

臨席者11 つらくて、きびしい、

臨席者12 冬の日本海

臨席者13 雨がふらないか心配だった遠足。

臨席者14 バスの中できっと誰かがゲロを吐き、

臨席者15 楽しく歌った、歌の数々。

臨席者16 給食を奪い合ったり、

臨席者17 投げあったりして、

臨席者18 先生に往復ビンタを食らうこともありました。

臨席者19 毎朝おはようと声かけてくれた緑のおばさん。

臨席者20 下校のとき、さようならと声をかけてくれた用務員のおじさん。

臨席者21 ふたりはとても、怪しい。

一同 とても、怪しい!

臨席者22 見て見ぬふりして、

臨席者23 薄目で見ながら、

臨席者24 噂が広がり、

臨席者25 緑のおばさん、行っちゃった。

臨席者26 男を求めて、行っちゃった。

臨席者27 そして忘れた頃にやってくる定期検診。

臨席者28 怖かった予防注射、

臨席者29 いやだった検便、

臨席者30 いつも遅くまで練習を積み重ねて、

臨席者31 汗を流したクラブ活動もありました。

臨席者32 全力でたたかった球技大会、

臨席者33 歯をくいしばって走りぬいたマラソン大会もありました。

臨席者34 判らない問題を解きあった勉強会。

臨席者35 みんなで知恵を絞ったおたのしみ会。

臨席者36 みんな活躍した学芸会。

臨席者37 一致団結した五・二六決起集会。

臨席者38 (調子をかえて)こういったァーさまざまのォー、レクリエーションもォー、

臨席者39 かんがみるにィー当局ならびにPTAのォー、

臨席者40 偽善的ィーかつ巧妙にしかけられたァー、

臨席者41 強制的支配体制でありィー、我々は断固としてェー、

臨席者42 (調子を戻して)これまでの思い出を深く胸に刻み込み、

臨席者43 大切にしていきたいと思います。

臨席者44 楽しかった思い出も、

一同 楽しかった思い出も、

臨席者45 苦しかった思い出も、

一同 苦しかった思い出も、

臨席者46 みな懐かしく、

臨席者47 巣立っていくこれからの、

臨席者48 心の糧となるでしょう。

臨席者49 そして最後の思い出として、

臨席者50 待ちに待った、

ヒカル きょうは僕たちの、

男子一同 きょうは僕たちの、

カオル きょうは私たちの、

女子一同 きょうは私たちの、

ヒカル・カオル ノンシャラン!

一同 駆け落ち道中!

 

  全員、歌いながら踊りはじめる。

 

(歌2)一同

 

♪ いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駆け落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 

  向き合えば二人だけ

  愛しあっていたものを

  なのになぜ 引き離す

  駈け込む列車の

  行き先も知らずに

 

  いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駈落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 

  気がつけば一文無し

  振り向けば光る海

  だからもう もどれない

  焼けた砂踏みしめ

  足跡をあずけてゆく

 

  いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駆け落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 


ノンシャラン駈落ち道中 002

 

  (歌と踊りのあいだにヒカルはカオルを連れ去り、祭壇がマリア像が駅員となった改札を抜けていく)

 

 

 

  2 いささか不安な

 

  海辺を歩く水着の女の子たち。それを眺めているヒカル。

 

(歌3)「ファイン・デイ」ヒカル

 

♪ 誘惑の砂浜に集まった女の子

  これまでみせてた体を

  波間に隠しちゃいけないよ

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

 

  くびれた線を残してオン・ザ・ビーチ

  見逃したらレトランジェ

  太陽のせいは嘘じゃない

  アヴァンチュールはここにして

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

 

  冷たいもんでも飲みませんか

  誘われていってはみるけど

  うかつに馴れちゃいけない

  恋はまだまだこれからさ

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

 

  (西条八十「トンコ節」より)

  上は行く 下も行く

  上は泣く 下でも泣くよ

  君は省線 僕はバス

  つらい別れのガード下

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

  Come on Come on Fine day

 


ノンシャラン駈落ち道中 003  ファイン・デイ

 

  缶ジュースを買ってきたカオルが「こらっ」とヒカルの首筋に缶を当てる。びっくりするヒカル。

 

カオル 懐かしいね、ここ。

ヒカル 子どもの頃はカオルの家族と来たし、中学のときは悩み相談、最後は高校のとき花火をしに来た。そして今日は誘拐。

カオル 誘拐ね……それにしてもずいぶん思い切ったことするのね。

ヒカル それはこっちの台詞だよ。なんだってあんなヒョーロク玉と。

カオル いいじゃない。お金持ちだもん、スタイリストの勉強も自由にさせてくれるっていうし。(うれしそうに)でも、ヒカル君が私のこと、やっぱり好きだったなんてね。

ヒカル 馬鹿いうなよ。俺はカオルのおふくろさんにそそのかされたんだよ。

カオル またいい加減なこといって。

ヒカル ほんとだって。

カオル ま、いいか。ママは昔っからヒカル君のこと贔屓にしてたからな。冗談でもいいそうよ。

ヒカル じゃ俺がまに受けたってわけ?

カオル さあね。

ヒカル つくづく変わってんだな、カオルは。その、どんな状況でもノホホンと平気でいられる性格。

カオル そうかもね。でもヒカル君だって、ちっとも変わってないじゃない。大胆で慌てん坊のところなんか……よく遊んだよね、裏の原っぱ、ヒカル君おぼえてないでしょ。

ヒカル そうだなぁ、怪我ばかりしてたような……

カオル 怪我をしてたのは私の方よ。いつもヒカル君のあとばっかりくっついてて転んでたし……あの頃が一番幸せだったのかもね。このごろね、よく思うんだ。まだ自分が子どもだった頃のことって、たまに思い出してあげないと、心が貧しくなってしまうんじゃないかなって。

 

(歌4)「忘れちゃいませんか」カオル

 

♪ ちいさなホッペを真っ赤に染め

  走った草原の春風にのって

  悩まず過ごしてた あの頃

  忘れちゃいませんか

  遠い星まで かけた願いごとを

 

  夕暮れ間近も知らんぷり

  つまんだホウセンカ弾ける声で

  歌ったこともない 近頃

  忘れちゃいませんか

  遠い国まで 馳せた物語を

 

  大きく手を振る帰り道

  黒い影法師どんどんのびて

  怖がることもない あれから

  忘れちゃいませんか

  遠い町まで 告げたさようならを

 


ノンシャラン駈落ち道中 004  忘れちゃいませんか

 

ヒカル それから、カオルんちが引っ越して行ったんだよ。

カオル 君、私に原っぱに埋めてた宝箱をくれたのよ。

ヒカル そうだっけね。

カオル 泉屋のクッキーの缶。何が入ってたか覚えてる?

ヒカル さあ。

カオル 壊れたゼンマイとか、虫のサナギとか。

ヒカル 女の子にサナギはないよな。

カオル ほんとよ。

ヒカル そう、そう、引っ越してから最初に遊びに行ったときさ……

カオル 高校生の頃ね。

ヒカル カオルが書いてよこした地図がぜんぜん違っててさ、大変だったんだよ、あんとき……

 

(歌5)「間違いだらけの地図」ヒカルら

 

♪ 君が書いたこの地図がへたくそだから

  約束まで間に合いそうにもない

  手当たり次第歩いても電話もなくって

  しわくちゃになった地図とにらめっこ

 

  煙突なんてどこにもないCRAZY

  頭の中までクラムボンボン

  指切りしたっけ針千本

  アイスクリームも溶けはじめてるBABY

  こうなったら意地でもみつけてREADY

 

  道行く人に尋ねても首をかしげて

  ほんとに君はこの町に住んでいるの?

  屈託のない野良猫にも笑われちまって

  僕はますます途方に暮れてゆく

 

  君の部屋まであと何センチ? DIZZY

  さまようアルチュール・ランボーボー

  これじゃまったくかくれんぼ

  青い空でも情け容赦はGRIMLY

  ないならさよならするしかないなら

  GROGGY

 

  夢のようなこの町は間違いだらけで

  約束はかなえられそうにもない

  手当たり次第歩いても見当たらなくって

  しわくちゃになった地図とにらめっこ

 


ノンシャラン駈落ち道中 005  間違いだらけの地図

 

カオル そんなことあったね、駅の反対側に行っちゃったりしてさ……いまじゃあそこらへんもずいぶんかわったんだろうけど。

ヒカル なんだかんだいってもあの頃はよく会ってたな。

カオル サッカーの試合があるっていえば応援しにいってたし。

ヒカル 文化祭があれば見にいってた。

カオル あのころ、映画だのコンサートだのってよくいってたよね。それからあまり会わ なくなったじゃない。ヒカル君、つきあってた人いたんでしょ?

ヒカル ……カオルもいたんだろ?

カオル 私は女子大の寮に入ってからは寂しいものよ。あれっきり会わなくなっちゃったよね。

ヒカル そうだっけな、なんでだったんだろうね……いつも妹みたいな存在だったのにな。

カオル ほら、その一言が余計なの……

ヒカル どうしてさ。

カオル どうしてってことないでしょ……

 

  カオル、ヒカルそれぞれ離れて、当時の心情を歌う。

 

(歌6)カオル

♪ あれからずっと気にしてたわ

  あなたの 一言古い話だけど

  いまごろきっと私のことも忘れて

  いけないことしてるんじゃないの

  それでもかまわない

 

  どんなときでもあなたの姿

  みつけてる

  昔はわからなかったけれど

  きまぐれだけで思い出してた

  わけじゃない

  いつも彫りつけた姿よ

 

  いまならきっと好みの女の子に

  なってみせる自信があるの

  いまもときには眠ることができない

  傷跡ひとりでこじらせて

  なぜなの教えて

 


ノンシャラン駈落ち道中 06 あれからずっと

 

(歌7)ヒカル

♪ あれから電話もこない

  それほど愛がすりきれたとは

  思わない

  やっぱりそれだけ僕に

  落ち度があったといえば

  言い訳になる

 

  君がひとりでしょんぼり

  帰っていくそぶりをみせたなら

  追いかけていって

  きっと心も正直になれたものを

  そっとなにげなく伝えたくて

  君のそばにおいてきた台詞

 

  会わずにいればそれだけ

  忘れることができない声を

  聞きたくて

  サクランボひとつ取って口に

  頬張ってみせていた君を

  思い出すたび

 

  街の波から逃れて

  たった二人きりになれても

  話すこともなく

  じっと伏目がちにの君を見つめたまま

  そっと抱き寄せて耳もとまで

  消え失せそうな言葉もいえずに

 


ノンシャラン駈落ち道中 07 なにげなく

 

カオル ねぇ、これからどうするつもり?

ヒカル そうだなぁ、ともかく俺んとこに来てほとぼりが冷めるのを待つしかないな。

カオル まずいよ、それ。ヒカル君とこだったらすぐ見つかっちゃう。

ヒカル 見つかる?

カオル 知らないの? 私の結婚相手だった人、財閥の御曹司で組織の人ともつながってるのよ。

ヒカル (青ざめて)組織?……色素の間違いじゃないよな。

カオル 組織。そこの手下のボディガードみたいのがいて、きっと探しに来ると思うの。

ヒカル それじゃ、これからどうするんだ?

カオル だから聞いてるんじゃない。

 

  音楽「駈落ち道中」のスローなメロディーが流れる。

 

ヒカル 一生、追われ続けるわけか……

カオル ……

ヒカル 俺の人生ってなんかいつもこんな調子でちぐはぐだよな満足に上手くいった試しがないんだ。

カオル ……そんなこといわないでよ……

ヒカル だって、どうするよ、宿に泊まりつづけるなんて金はないし、友達んとこに頼むわけにもいかないだろ。

カオル ……後悔してる?

ヒカル え?(心配そうなヒカルの顔を見て微笑んでみせる)まぁ、なんとかなるって……アロンジ・アロンゾだ。

カオル なにそれ。

ヒカル 『気狂いピエロ』のおまじない。行こうぜ、やろうぜって意味のね。

カオル ふーん。

ヒカル ……カオル、ストッキング脱げよ。

カオル ええ? なによ突然。

ヒカル いいから。

カオル またなにか変なこと思いついて。

ヒカル いいからさ。

カオル ……あ、まさか強盗でもしようっていうんじゃ……

ヒカル 人聞きが悪いな、ちょっと扮装してお金を借りるだけだよ。

カオル だめよ、そんなの……それより、扮装っていうので思いついた。

ヒカル なんだよ、いったい。

カオル いいから、いいから、さ、行こう、じゃない、なんだっけ、アロンジ……

ヒカル アロンゾ。

 

  二人、退場。

 

 

 

  3 すこぶる暢気な

 

  新郎マサルの一行。マサルをはじめ侍従の宮本、以下コワソーな七人の黒服の男たち。

 

マサル 宮本ォ!

宮本 はっ、ボッチャン。

マサル まだ見つかんないの? 僕のフィアンセー。

宮本 はぁそれがどうしたわけか、足取りがつかめませんで。

黒服1 相手の根城は押さえておりますので、発見はじきかと……

マサル あっそー、でもね、指ィくわえて待ってたってだめなのよん。

宮本 承知しております。

マサル こんなにさ、精鋭の大の大人が集まっててさ、情けないよな。その筋ではちっとは名が知れ渡ってる、泣く子も黙るっていう「ボッチャン親衛隊」、略して「ボッチャン親衛隊」

宮本 全然略してねぇじゃねぇか(とマサルをどつく)

マサル 痛ぇ!

宮本 はっ、申し訳ございませんでした!

マサル そう、「ボッチャン親衛隊」の名折れだよん。

宮本 (黒服たちに)そうだよ、ボッチャンの仰るとおりだぞ、お前たちの心意気をみせて、ボッチャンを励ましてさしあげなさい。

 

  宮本、指揮をはじめると七人はただちに合唱団に。『クラリネットをこわしちゃった』の曲にのせて、七人が伴奏を歌いはじめると、マサルが歌い出す。

 

(歌8)マサル

♪ パパがすすめたフィアンセー

  ボクもみそめたフィアンセー

  とっても大事にしてたのに

  邪魔をしてきた奴がいる

  どーだろ(一同 パー)

  どーだろ(一同 パー)

  (一同 ああ、ふてぶてしい、ふてぶてしい、

   ぶって、ぶって、ぶっとばせ!

   ふてぶてしい、ふてぶてしい、

   ぶって、ぶっとばせ!)

黒服1 いま

黒服2 すぐ

黒服3 には

黒服4 まだ

黒服5 なか

黒服6 なか

黒服7 みつ

宮本  からなーいでーす

黒服1 どこ

黒服2 から

黒服3 さが

黒服4 せば

黒服5 いい

黒服6 のか

黒服7 も

宮本  わからなーいでーす

マサル とっても大事にしてたのに

    連れてゆかれた人がいる

    どーしよ(一同 パー)

    どーしよ(一同 パー)

一同  オーパッキャマラード

    パッキャマラード

    パオパオ、パッパッパッ

    オーパッキャマラード

    パッキャマラード

    パオパオパー!

黒服1 なく

黒服2 こも

黒服3 だま

黒服4 ると

黒服5 いわ

黒服6 れて

黒服7 いる

宮本  ぼくらーだけーど

黒服1 そん

黒服2 なに

黒服3 すご

黒服4 いと

黒服5 おも

黒服6 われ

黒服7 てる

宮本  ぼくらーじゃなーい

マサル とっても注意をしてたのに

    連れてゆかれた人がいる

    どーしよ(一同 パー)

    どーしよ(一同 パー)

一同  オーボッチャマ、どうぞ

    ボッチャマ、どうぞ

    くよくよなさらずに

    オーボッチャマ、どうぞ

    ボッチャマ、どうぞ

    なげかずに

 

 

マサル そんな調子だから、心配なんじゃないか、もぉー。

一同 ははぁ!

マサル 頼りないねぇ。

宮本 面目ございません。

マサル 宮本、それより披露宴の方は上手くいっておいてくれたんだろうね。

宮本 ええ、それはしっかり。披露宴ばかりか、二次会、三次会、四次会、五次会まで、 参席予定の方々には、花嫁の急病を理由にキャンセルいたしました。もちろん引き出物としてロレックスの砂時計とマイセンの山椒入れ、それにまい泉カツサンドをお付けしました。

マサル 花嫁に逃げられたなんて格好悪すぎだからな。そのへんもちゃんと金を撒いて口を封じておいてもらわないと。

宮本 ええ、そこのところも、ぬかりはございません。

マサル 落ち込んじゃうよな、なんだかさ、なぁ宮本ぉ、おまえあの子どう思う?

宮本 どう、と申されましても……

マサル お前いろいろ詳しいんだろ?

宮本 いえ、それほどでも。

マサル じゃぁどうよ。

宮本 あの手の意外にしっかりした女性ですと、将来的に見た場合ボッチャンのような方とは……

マサル なによ。

宮本 いえ、おやさしいボッチャンのことですから……

マサル 気に入らんちゅうの?

宮本 いえいえ、とんでもございません。なあ(と黒服たちに)

黒服1 はい、すてきでございます。

黒服2 すばらしゅうございます。

黒服3 おうつくしゅうございます。

黒服4 うるわしゅうございます。

黒服5 はなばなしゅうございます。

黒服6 あいらしゅうございます。

黒服7 かわいらしゅうございます。

宮本 (言い尽くされた言葉をさがしあぐねて)はぁ大変いとわしゅうございます。

マサル いとわしい?

宮本 あ、いえ、いとおしゅうでございます。

マサル (安心して)宮本ぉ、お前まさか人のフィアンセに惚れたんじゃないだろうね。

宮本 滅相もございません。

マサル はーん、そんなに魅力ないのかね。

宮本 あーいや、ボッチャンにはことのほか……お似合いかと……

マサル そうだよな、きっと。少しは気分を持ち直したみたい。

宮本 それはそれは我々一同からお喜び申しあげます。

マサル いいんだよ宮本、そんなに気ィ使わなくても。たださ、わかるだろ、フィアンセが結婚式の当日に他の男と逃げちゃったんだぜ、こりゃ誰だって落ち込むよな。

宮本 お気持ち、お察しいたします。

黒服一同 お察しいたします!

マサル なんだよ、お前たち声がでかいだけで全然察してないんじゃないの。まぁね、こんな気持ちは僕みたいにデリケートな人間にしかわからないだろうからな。

宮本 ボッチャンは人の数倍も繊細にできておられますから、さぞお苦しみのことと存じます。

マサル やっぱ僕ってそういった自分の性格を隠し通すことがインポッシブルブルブルブルジョアな人間なんだろうなぁ。

宮本 それは裏表のない誠実な人徳といえましょう。

マサル だ、ろうな。気がついてはいたが。でも、逃げられてしまうんだな、これがさ。

宮本 実に奇怪でございますね。

マサル あーあ、逃げられてみると余計に恋いしくなってくるよな。

宮本 やはりそういうものでございますか。

マサル そういうの、お前わかんないかねぇ。

宮本 逃げられたことがありませんので。

マサル わかったよ達人、もういい!

宮本 いえ、たしかに逃がした魚は大きいという譬えもございますから。

マサル まだ逃がしたわけじゃないんだよ。

宮本 ごもっともです。

マサル ほら、妙に、おぼろげに、彼女の姿が思い出されるっていうかさ……

 

(歌9)マサル

♪ ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

  ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

  すっきりとワンピース

  肌が透けるほどに

  うっすらアイシャドーの

  瞼をそっと 閉じたなら

  すべてを忘れてそのときばかりは

  ハムレット

  ほころびかけた蕾の紅を乱したくなる

 

♪ ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

  ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

  しっくりとハイヒール

  すこし背を延ばして

  それだけでスキャンダル

  巻き起こしてるとも気づかずに

  無邪気な様子で微笑む笑顔は

  ジュリエット

  どんなに汚い手段使っても

  奪いたくなる

 

  ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

  ティンクル・ウィンクル

  リップ・スター

 


ノンシャラン駈落ち道中 09  トゥインクル・ウィンクル・リップスター

 

  黒服の一同、宮本に促されて、まばらな拍手と鈍い歓声をあげる。

 

マサル そんなのどうでもいいからさ。こんなところでボーッと立ってないで、ちっとは精鋭の親衛隊ぶりをみせてくれよな。

黒服一同 はっ!

 

  宮本の携帯が鳴る。

  

宮本 (携帯をとって)うん、うん、わかった(携帯をきって)よーし、網にかかったらしい。

 

  宮本、顎で出撃を促すと、機敏に応じる黒服。しかし一同、われさきにと全員が退出しようとして、ドアの出入り口にぐずぐずつっかかってしまう。

  うなだれる宮本とマサル

 

 

 

  4 いかにも闊達な

 

  ミッション系女子大寮の食堂。

  暗闇の中、二人の尼僧が懐中電灯をもって見回りにやってくる。

 

尼僧A またあの子たちは門限を破ったみたいね。

尼僧B あと五分です。シスター。

尼僧A しょうのない子たち。どうせ見えすいた言い訳を考えて来るんでしょうけど。

尼僧B 変な人たちにからまれちゃったんです、とかね。

尼僧A まったくあの子たちのお蔭で、こんな方まで見回りさせられちゃって、嫌だわ、 怖くて、でもまさか、ねぇ……

尼僧B まさかって何ですか?

尼僧A まだご存知じゃないの? 北館の食堂で啜り泣く謎のシスター、泣き虫シスター の話。

尼僧B そんなのがいるんですか?

尼僧A 見た人もいるらしいのよ、シスターの格好したその霊の顔のところが妙に煙みたいにモヤモヤとしてね。フクロウみたいな声で泣くんだって。だから特にあの中庭の片隅には誰も行かないようにしてるらしいの。近づかない方がいいわよ、あそこは。

尼僧B やめてくださいよ。シスター。

尼僧A 昔、食事当番だった新人のシスターが過って転んだ拍子にお湯を顔からかぶってしまってね。火傷の跡でノイローゼになったまま亡くなったんですって。それ以来、新入りの学生や若いシスターには必ずちょっかいを出すって……(と尼僧Bの僧衣をうしろからひっぱる)

尼僧B ひゃっ!

尼僧A はい、びびった罰(といって相手の肩を拳固で軽く二回叩く)

尼僧B おどかさないでください。

尼僧A ……それにしても、遅いわね。

尼僧B 今度門限を破ったら、お説教してやらないと。

尼僧A 何いったって、へっちゃらよ、今の子は。

尼僧B そうですか。

尼僧A いいのよ、今あの子たちが一生懸命、思い出を作ろうとしているんだと思えば。 やりたいようにさせておくのが一番。

尼僧B それではいつまでたっても、ちゃんとしたまっとうな一人前のレディにはなれないのではないですか?

尼僧A 自分で気がつくときが来るのよ。一人前の女性なんていうのは教わるものではなく、自分で考えて、自分で感じて、養っていくものよ。いくら私たちが説教めいたってだめね。世の中のことは私たちより、あの子たちの方が詳しいくらいなんだから。

尼僧B それにしても、こう、しょっちゅう、クラブだなんだと遊び惚けていられては困 ります。

尼僧A まあ、少しはお灸をすえなくてはね。夜間外出禁止とか。

尼僧B あんな踊ったりするもののどこが楽しいのでしょう。

尼僧A あら、シスター、あなたは踊りが好きではないの? どこの世界でも、いつの時代でも踊りは人々を魅了してきたのよ。特に女の子にはね。

 

  しんみり歌いはじめる尼僧A。

 

(歌10)尼僧A

♪ 娘たちが踊りたがるわけを教えよう

  瞳を輝かせて夢中になるのも

  好きな人に寄せる熱い思いが

  棲みついてしまうからだと

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ララララー

 

  眼を病んだ娘のためにある青年が

  森の深く探しにゆくベラドンナ

  そのまま青年は行方知れずになり

  娘は毎日泣き暮らす

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ラララ 

  セイホーシャンララ ララララー

 

  森の神さまこの命とひきかえに

  どうかあの人だけは助けてください

  娘は手探りで森をさまよう

  すると闇の中から声が

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ララララー

 

  それならば娘よこの私のために

  一生休むことなく踊りつづけよと

  そして娘はひたすら踊りつづける

  朝も雨の日も月夜でも

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ララララー

 

  森の中で娘の亡骸がみつかり 

  引き取り手もなく葬られてしまったが

  娘の瞳には曇ることのない

  ガラス玉が埋まっていたと……

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ラララ

  セイホーシャンララ ララララー

 


ノンシャラン駈落ち道中 10 瞳のバラッド

 

  歌っている間、尼僧Aは懐中電灯をマイクがわりに持っていたため、顔が下から照らされており、歌い終えると尼僧Bがぎょっとなる。

 

尼僧B なんだか霊気がただよっているような気がするんですけど。

尼僧A そうよ、泣き虫シスターの霊が……

 

  窓の外に尼僧の人影が浮かび上がると、それを見た尼僧Bが絶叫する。尼僧Aが振り向いたときには人影が消える。逃げ出す尼僧B。

 

尼僧A そんな大袈裟に驚かなくても……  (とのあとを追う尼僧A)

 

  食堂のテーブルの下から、七人の女子寮生が顔を出し、現れる。

 

洋子 あぶなかったね。

礼子 ほんと。

良子 見つかったら、また一週間夜間外出禁止になるところ。

聖子 見つかっても、見つからなくても、おんなじよ、門限破っちゃったんだから。

翔子 でも、時間内には戻ってきたよ。

恵子 せめて何かうまい言い訳、考えとかなきゃ。

翔子 変な人たちに絡まれちゃったって?

 

  一同、クスクス笑う。

 

恭子 お灸すえてやらなきゃなんて言ってたから、言い訳なんて無駄よ。

洋子 あーあ明日から、また魔の一週間?

 

  ロシア民謡『一週間』の曲が流れてくると、寮生たちが歌いはじめる。

 

(歌11)一同

♪  チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラ、チュラ、チュララー

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラーラー

洋子 日曜日はお祈りをして

   サザエさんを見るのです

一同 チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラ、チュラ、チュララー

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラーラー

礼子 月曜日はガラカメ読破

良子 火曜日は字引きが枕

一同 チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラ、チュラ、チュララー

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラーラー

聖子 水曜日はクッキー焼いて

翔子 木曜日はダイエットです

一同 チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラ、チュラ、チュララー

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラーラー

恵子 金曜日は踊りも行かず

恭子 土曜日はおしゃべりばかり

一同 恋人よこれが私の

   一週間の仕事です

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラ、チュラ、チュララー

   チュラ、チュラ、チュラ、

   チュラーラー 

 

  と盛り上がって歌っていると、一人が悲鳴をあげて、窓の外を指さす。一同歌い止む。

  窓の外に悲しげな一人の尼僧の姿。

 

一同 出た!

 

  すると窓の外の尼僧が頭巾を取って、ピースサインをしてみせる。

 

一同 カオル……

 

  カオル、食堂に入ってくる。

 

洋子 どうしたのよ、いったい。

礼子 急病で式が中止になったってきいたよ。

良子 ちゃんとパーティーグッズまで揃えて弾けようと思ってたのにさ。

聖子 おかげで、よそで盛り上がっちゃったよ。

翔子 夜間外出禁止のおまけ付き。

恵子 それにしたって、びっくりよ。

恭子 それもこんなところで。

カオル よかったぁ。ちょうどみんながいて。さっき正面玄関の方からこっそり見たら、まだ洋子も礼子も良子も聖子も翔子も恵子も恭子も帰ってきてないみたいだったから、どうしようかと思ってたのよ。

恭子 え? もう一回言ってみて。

カオル 洋子も礼子も良子も聖子も翔子も恵子も恭子も……(言おうとしてやめる)

洋子 それでなにごとよ。

カオル お願いがあるの、北館の103とか203とかまだ空いてる?

恵子 まだ誰も。

翔子 物置きになっちゃってる。

カオル ちょっとかくまってほしいの。

恭子 ヤバいこと?

カオル まあ、こっそりと泊めてくれるだけでいいの。実は連れの友だちがね、テロリストの彼と付き合っていて、その彼氏が警察に捕まっちゃったのよ、それで彼女まで追われているの。

恵子 式をすっぽかすなんて、よっぽどなのね。

聖子 なんだかワクワクしちゃうじゃん。

洋子 そんなことならかまわないけど。

良子 どうせこれから、しばらく退屈するところだったんだから。

礼子 彼女は?

 

  カオル、窓の外のヒカルを呼び入れる。ヒカルは革ジャンに革のパンツ、革のブーツで身をつつみ、ロングヘアに野球帽を目深にかぶり、サングラスをかけ、口紅をひき、腕にはブレスレットといった出立ちで女装をしている。

 

カオル ヒカルっていうの。

 

  ヒカル、ちょこんとお辞儀をする。

  寮生たちは羨望の眼差しを送り、口々に「カッコイイ」などと溜め息を洩らしている。

 

良子 とりあえず、みんなで飲み直そ。

聖子 待ってました。

洋子 歓迎会もかねてね。

カオル 悪いわね。

 

  と寮生はそれぞれ心得たように、厨房に入っていく。

 

ヒカル みんな勝手し放題みたいだけど、ここは本当に女子寮なのか?

カオル こんなもんよ……どう、全然バレなかったでしょ?

ヒカル さすがスタイリストだ。

カオル 友達んちの古着屋がやっててよかったよね。

ヒカル でも、この格好しててもいずれはバレるだろ。

カオル しばらくはだいじょうぶよ。中庭裏の北館なんてめったに人がよりつかないんだから。さっき話したフクロウみたいな声で鳴く泣き虫シスターの霊が出るって。

ヒカル カオル、それより、おかあさんに電話しておいた方がいいんじゃないのか?

カオル うん、そうする。

 

  カオル、食堂片隅から電話をかけると窓の外にスポットが当てられ、カオルの母が浮かびあがる。

 

カオル あ、ママ? あたし。

カオルの母 カオル? あなたいったいどうしてるの。

カオル 今ね、寮の方にいるから安心して。

カオルの母 ヒカル君はどうしたのよ。

カオル 一緒。

カオルの母 一緒って、どうやって……

カオル だいじょうぶ、バッチリ女装させてるから。

カオルの母 (笑って)あら傑作。ママも見てみたい、ヒカル君が女の子の格好してるなんて。

カオル 結構イカすのよ。そっちはだいじょうぶ?

カオルの母 さっき先方の方がみえたけど、適当にごまかしちゃった……でもよかった、 無事でいるんなら。心中でもするんじゃないかって。

カオル まさか、いまどき。パパにも心配しないでって。

カオルの母 この間、ヒカル君からね、電話がかかってきたとき、カオルが本当に結婚するんですかって、かなり深刻そうだったから。

カオル ふーん。

カオルの母 二人がまだ小さいとき、カオルが蚊に喰われたっていったら、ヒカル君、カオルが蚊に食べられたと思って泣き出しちゃってさ。カオルちゃんが蚊に喰われた、蚊に喰われたって大騒ぎして……ママはね、小さいときから、あなたたちがうまくいけばなって思ってたのよ……好きな人と一緒になるのが一番だからね。

カオル でもヒカル君が本当に私を好きかどうかわからないもん。

カオルの母 だいじょうぶだって。

カオル ママもそういうことあった?

カオルの母 そうね……

 

(歌12)カオルの母

♪ ママが若かったころ そうね

  都会をぶらぶらして

  流行りのものを身につけて

  フツーの女の子でした

  あなたと同じように

  悩みもしたし

  でも今はいそがしくって

  覚えてないの

 

  ママが若かったころ そうね

  あなたが生まれる前

  ママにもそういうときがあったのよ

  聞かせたことはないけど

  好きだった人はもう

  他の人のところ

  パパには悪いけど思い出すの

  (カオルの父現れて)

  オー、ノー!

 


ノンシャラン駈落ち道中 12 そうね

 

カオルの母 カオル、ヒカル君いる?

カオル かわる?(とヒカルを呼ぶ)

カオルの母 あ、いいの、ちょっと一言、頑張ってって……パパとかわろうか?

 

  カオルはヒカルに「ママ」といって受話器をわたし、一方カオルの母は父に「カオルといって受話器をわたす。

 

カオルの父 いま、どうしてるんだ?

ヒカル (おやっ?となり)あ、いまあるところにかくまってもらってます。

カオルの父 (おやっ?となり)きみか、式をぶちこわしてくれたのは。いったいどういうつもりかね、娘の幸せを踏みにじって。

ヒカル 踏みにじるなんて……

カオルの父 (諭すように)私はね、きみに対して怒りをもっているわけじゃないんだよ。むしろ勇気のいる立派な行動だったと思ってもいい。でもな、よーく考えてごらん、きみに何ができるんだ? カオルになにをしてやれる? あの子が幸せになるのには何が必要か。なに不自由なく暮らしていけることがどれだけありがたいことかってな。

ヒカル ……

カオルの父 今回のことは決して責めたりはしない。あとはきみがきちんと判断することだよ。

ヒカル ……(受話器を置く)

カオル ママ、また調子のいいこといってたんでしょ。

ヒカル ……まあね。

 

  厨房から寮生が顔を出し、手招きする。

 

恵子 カオル、それにヒカルさんも。

カオル 行こっ。

ヒカル カオル行ってこいよ。俺、一服してくる。

カオル ロビーじゃシスターに見つかっちゃうから、中庭で。泣き虫シスターの霊に出くわさないように気をつけてね。

 

  カオル、厨房の方へ。

  ヒカル、外へ。

 

 

 

  5 なるほど軽率な

 

  中庭の片隅で尼僧Aが煙草を吸っているところへ、ヒカルが現れる。あわてて隠れる尼僧A。ちらりとその痕跡を見送るヒカル、ベンチに腰をかけて煙草を吸う。ベンチにオカリナを見つけ、なにげなくポケットにしまう。食堂で女の子たちのはしゃいでいるのが見える。

 

ヒカル みんな、ああ見えて、ひとりひとりいろんな悩みをかかえているんだろうな……

 

  寮生たちはひっきりなしにおしゃべりをしながら爆笑しては「静かに」という身振りをくわえたりしている。

 

(歌13)ヒカル

♪ うら若いばかりの女の子は

  いつも、ちいさないざこざで

  大切だった夢の切れ端を

  なくしてゆくだろう

 

  ひとりよがりだった思いだけが

  知るらぬまについつぎつぎ

  大事な人なのを、いいことに

  傷つけるだろう

 

  燦々と陽がさす広い家

  人も羨む高級車

  ようこそ海外旅行のパスポート

  夢ゆらゆらゆらゆら

  夢ゆらゆらゆらゆら

 


ノンシャラン駈落ち道中 13  夢ゆらゆら

 

  歌い終わるとベンチに腰かけ、思いにふけるヒカル。

  舞台袖にマサル一行が現れる。お嬢様風の女装をしたマサル

 

マサル (黒服たちに)よーし、お前らは向こうの裏を見張れ。

 

  黒服たち、すみやかに去る。

 

マサル これ、どう?

宮本 はい、実によくお似合いです。どこをみても良家のお嬢様で。とてもフィアンセを連れ戻しに、女子寮に女装して侵入してきた馬鹿息子には見えません。

マサル お世辞はいいんだよ、宮本。それよかさ、ベンチに座ってるあの子、イカすな。

宮本 はぁ。

マサル ああいう娘って僕のタイプなんだよね。

宮本 カオル様は……

マサル それはまあ……僕を裏切ったことでもあるし……あの娘に決めた。

宮本 またずいぶん早いご決断で。

マサル なんとかなるかな。

宮本 さあ、それはボッチャンの腕次第でございましょう。

マサル どうしたらいい?

宮本 そうでございますね。僭越ながら、橋本めの個人的な忠告を申しのべさせていただかせてもらえるならば、あの手のイキがった感じの女性には、まず強気で出るのがよー ございます。ドスの効いた声で一言かましておきますと、相手はかえって反発して目をそらすでしょう。ところがボッチャンの格好を見て、不思議に思うはずです。でも相手は気位が高いですから、無視し続けるはずです。このとき、ボッチャンへの強い関心を隠すように、煙草に火をつけでもしたら、しめたもの。突然やさしい口調で泣きに入るのです。その落差で相手の隙をつくのです。あとは相手の意識の反動を利用して、甘い言葉でたたみこめば、もうボッチャンのものです。さしずめ相手の心を自由自在にあやつるパイロットとして恋の夜間飛行を楽しめばいいんです。これで一丁あがり。

マサル ずいぶん狡猾だな。

宮本 恐れ入ります。さ、ものは試しです。

 

  マサル、宮本にうながされて、背後から女装したヒカルに近づく。宮本のガツンという手振りにうなづいて。

 

マサル (ヒカルの耳許で)気に入ったぜ、ベイビー。

 

  ヒカル、ちらりと振り向くとサングラス越しにマサルが見えるので、驚いて知らんぷりを通す。

  OKサインをかわすマサルと橋本。

 

マサル おや、彼女、ずいぶん冷てぇんだな、こんな格好してんのには、訳ありでね。君、ここの子?

 

  ヒカル、うなずくと煙草に火をつける。

  マサル、振り返ると橋本がハンカチで涙を拭う仕草。

  一方、シャベルを持って中庭の片隅に何かを掘ろうとしにきたカオルがやってくると、陰から二人の様子をうかがう。

 

マサル (ハンカチを出して泣く素振り)実はさ、俺、女の子に振られちゃってさ、寂しいんだ、とっても。こんな格好してるけど、うちは結構金持ちなんだぜ。ほら、いま手持ちに百万しかないけど、これで煙草でも買いなよ(と札束をヒカルに押しつける)

 

  ヒカルが金を渡されてるのを見て、カオルは立ち去る。

 

マサル エリートっていえばエリートなんだけどさ、家業を継いだんで、つらいことばかりでさ。小さいころから不自由はしなかったけど、自分の好きなことはいっさいやらせてもらえなかった。だから、夢なんてものもどんどん痩せ衰えちまってね……でも僕と一緒になってくれる人なら、その人の夢を叶えさせてあげたいと思ってるんだ。本当だよ。自分のために生きるんじゃない、人のために生きるのもいいなと思ってね。なんの不自由もさせない。その人の夢をきっと叶えさせてあげたいと思ってるんだ。だから、僕のなくしてしまったものを、ぜひ、きみに取り戻してほしいんだ。

 

(歌14)マサル

♪ ぼくの手に入らない

  ものなどないけど

  唯一 かなわぬ

  夢を実現させてみたい

 

  誰よりもその愛に

  飢えているこのぼくと

  たしかな 答えを

  ふたりで見つけ出してみたい

 

  ぼくが好きになった人になら

  なにも なにも惜しまないだろう

  ぼくが好きになった人になら

  なにも なにも惜しまないだろう

  WOW WOW

 


ノンシャラン駈落ち道中 14  

 

マサル どう、僕の話、聞いてくれた?

 

  と熱唱のあとに振り向くと、ヒカルはすでにベンチから立ち去っていない。

  宮本の方を見ると、お互いお手上げのポーズ。

 

 

 

  6 ますます無邪気な

 

  寮生の女の子と黒服の男たちが厨房で歌い踊っている。

 

(歌15)寮生女子

♪ おいしいスープはじっくり

  時間をかけて

  せっかちだったら料理は台無し

  待てば嫌がうえにも食欲が

  そそられてくる

  まだまだ足りない塩加減

  とろとろ煮込んで十二分

  そろそろいいかな味加減

  WOW WOW

 

黒服の男たち

♪ おいしい匂いが誘って

  俺たちを誘って

  朝からなんにも食べてない本当

  仕事するにもまず

  腹ごしらえしてから

  おあずけしなくてもいいじゃない

  味見をしたっていいじゃない

  一口くらいはいいじゃない

  WOW WOW

 


ノンシャラン駈落ち道中 15  おいしいソース

 

  マサルと橋本が現れて。

 

マサル こら、お前たちィ何してんの? こんなところで油売っちゃって。

黒服1 ボッチャン!……その……

黒服2 お言い付けどおり裏を見張っていましたところ、

黒服3 なにやら、うまそうな匂いがしてきまして、

黒服4 のぞいてみますと、妙齢の女性が楽しそうに、

黒服5 料理を作っているではありませんか。

黒服6 われわれは今朝から何も食べておりませんゆえに、

黒服7 ついつい、気を許して話しかけてみたところ、

洋子 この人たち、

礼子 本当にお腹すかしてたみたいだったし、

良子 ルックスもまぁ悪くないし

聖子 よかったら、どうぞって、中に入れてあげて、

翔子 食事をわけてあげるかわりに、

恵子 私たちが今日門限に遅れたのは、

恭子 この人たちのせいにしてもいいっていう取引きをしたところで、

宮本 楽しそうに、踊っていたのか。

マサル しかも僕を仲間はずれにしてね。

黒服1 そんなことおっしゃらず、どうぞボッチャンもご一緒に。

マサル いいのかい?

 

  一同、うなづくと、歌い踊り始める。

 

(歌15)寮生女子

♪ おいしいスープはじっくり

  時間をかけて

  せっかちだったら料理は台無し

  待てば嫌がうえにも食欲が

  そそられてくる

  まだまだ足りない塩加減

  とろとろ煮込んで十二分

  そろそろいいかな味加減

  WOW WOW

 

マサル一行

♪ おいしい匂いが誘って

  俺たちを誘って

  朝からなんにも食べてない本当

  仕事するにもまず

  腹ごしらえしてから

  おあずけしなくてもいいじゃない

  味見をしたっていいじゃない

  一口くらいはいいじゃない

  WOW WOW

 

 

  食堂のドアに人影。

 

洋子 シスターよ!

礼子 あなたたち隠れて!

 

  マサル一味がテーブルの下に身を隠す。

 

尼僧B まぁ、あなたたち。いまごろ帰ってきて、おまけに宴会をしようっていうの?

 

  とテーブルの上のパーティーグッズを没収しはじめる。

 

尼僧B いったい、どういうつもりですか!

マサル (テーブルの下から出てきて)どういうつもりもこういうつもりもないんだがね、シスター……

 

  マサル、おもむろに銃をつきつけて、

  暗転。

 

 

 

  7 きわめて神妙な

 

  中庭のヒカルとカオル

 

ヒカル カオル、話があるんだ。

カオル それより何よ、さっきの。

ヒカル さっきの?

カオル すっとぼけちゃってさ。

ヒカル どうしたんだよ急に。

カオル ふん!

ヒカル ……なぁカオル、お前どうして俺とついてきたんだ?

カオル ヒカル君が無理やり連れ出したんじゃないのよ。

ヒカル そうだよな。無理やりだったんだよな……

カオル え?

ヒカル 俺、自分のことしか考えてなかったのかもしれない。

カオル どうしたの?

ヒカル カオルにはきちんとした夢とか目的とかあるだろ。俺なんか行き当たりばったでさ。思いつきで、こうだと思ってきたことをやっただけのような気がする。それが今こういう羽目になってるんだよ。考えてみたら俺には金も学歴も才能もない。お前に何もしてやれない。

カオル 何が言いたいの?

ヒカル 別れよう……もう、逃げ回ったりする必要もないんだ。お前はあいつのところに行った方がきっといいんだよ。

カオル 本気なの?

ヒカル ああ。

カオル ……お金も学歴も才能もなんてくだらない。そんな言い方やめてよ。ずるいわよ。

ヒカル ずるい?

カオル 別れを切り出す口実ね。正直に言ってよ。さっきの彼女に未練があるんでしょ?

ヒカル 彼女?

カオル ちゃんと見てたんだからね。さっきの。

ヒカル (カオルの誤解に考えを巡らせて)はあ?……そうか……

カオル 彼女、泣いてたもんね。

ヒカル ……しょうがないんだ。

カオル さぞ、いいところのお嬢さんなんでしょうね、それもわざわざこんなところまでお金持って来るなんてね。

ヒカル …まあね。

カオル 駈落ちまでして、その挙げ句に別れようっていうの?

ヒカル そうだ。

カオル あの人が好きなの?

ヒカル ああ。

カオル うそ。ヒカル君、嘘つくと鼻がぴくぴくするからわかる。

ヒカル 本当だよ! 彼女が好きなんだ。

カオル …わかった。

 

  カオル、ヒカルに平手打ちをする。

 

ヒカル ごめん。

カオル ううん、正直に言ってもらってよかった。すっごくくやしいけど、しょうがないもんね……

 

(歌16)カオル

♪ 今日でお別れなら

  抱きしめて夜明けまで

  はしゃぎすぎた

  あの頃のために

 

  夢さめないでと

  祈ってた胸のうち

  残りわずか

  あなたとの日々も

 

  なんにも言わないで

  これ以上つらくしないで

  せめて笑ってみせて今夜は

 

  抱いて思い出すわ

  初めてのくちづけを

  かすみそうな

  ふたりだけの日を

 

  泣いて忘れられたら

  どんなにかいいでしょう

  きっといつか

  思い出さぬように

 


ノンシャラン駈落ち道中 16 最後の夜

 

  一部始終を見ていた尼僧Aが二人のもとにやってくる。

 

カオル シスター……

尼僧A ごめんなさい。いけないとは思いながら、話しを聞いてしまったわ。

カオル こちらこそ、すいませんでした。私たち追われていたので、つい、ここを頼って……

尼僧A 追われてきたというのを、むげに追い返すわけにはいきません。今日のところは北館でよければお使いなさい。

カオル ありがとうございます、シスター。

 

  食堂の方から、銃声のようなパンパンという音。

 

尼僧A なにかしら、行ってみましょう。

 

  尼僧A、ヒカル、カオル退出。

 

 

 

  8 はたして奇抜な

 

  食堂。

  次々にシャンパンを抜いて、酒盛りをしている男たち。女たちともども一様に行儀よく座っている。

 

マサル (黒服たちに)ほら、ほら、そうじゃないだろ、フォークの裏側にライスをのせ たりしちゃ、お里が知れるぞ、いけない癖だ……ひじ! そんなにしゃちこばらない! もっと上品に、そう、ちゃんとしたマナーでいただかなければ、お嬢さんたちに申し訳ないでしょ。

尼僧B あのう、この子たちもう寝る時間ですから……

マサル そうはいきません。みなさんはここにしばらくいてもらわないと。変に隠しだてをしたり、通報されたりしては困りますからね。(黒服たちに)早く、お前たち喰わないか!

黒服たち ふあ、ふあい。

マサル 口にものをいれてしゃべるんじゃないよ、バカタレ。

 

  そこへ尼僧A、ヒカル、カオル。

 

尼僧A どうしましたシスター。

尼僧B わたしにもどういうことだか……

マサル おお、これは探す手間がはぶけたよ。

カオル (女の格好をしたマサルに気づいて)えっ、あなたマサルさんじゃない! さっき中庭にいたのは、あなた?

マサル さあ、きみはこっちへおいで。

 

  銃口で指示されてマサルの方へ行こうとするカオル。

 

マサル きみじゃない、そっちのカッチョイイ方だ。

 

  ヒカルがマサルの方へ行く。ヒカルがサングラスとカツラをとると、一同唖然とする。

 

マサル なんだよ、お前!(と気持ち悪がって)カオルちゃーん、やっぱきみ。

 

  尼僧Aがカオルに名案を授けるように内緒話をすると、カオルをマサルの方に送り出す。

 

尼僧A お食事をするのはかまいませんけど、少しは片づけてからになさったら?

 

  といってテーブルの上のパーティーグッズを鷲づかみにする。

 

マサル さぁ、いい子だ。

カオル (ヒカルに)どういうこと、さっきの別れるって話、こんなのを好きになったとでもいうの?

ヒカル だから言ったじゃないか、はじめに。お前はそいつといっしょになった方が自分の思いどおりのことができる。俺は思いつきばかりで、結局、何もカオルにしてやれることがないって。

マサル よーく、わかってるようだね。さ、行こう(カオルをうながす)

カオル ちょっと待って(とマサルから銃を奪ってヒカルに向ける)よく今頃になって、 平気でそんなことが言えるのね。私の結婚式をめちゃめちゃにしておいて、それが済んだら、はい、さようならなの?……

 

  カオルは銃を突きつけてヒカルににじりよる。後ずさりするヒカル。

 

カオル あなたに私より好きな人ができたんだったら、私、別れてもしょうがないって、 さっきまで思ってた。でも嘘じゃない。私のためにしてやれることがないなんて、みくびらないでよ! ちゃんと私のために、あなたは私を連れ出してきてくれたのよ。それがずっと、ずっと私の夢だった、この夢を叶えてくれるのは、あなたしかいないのよ……思いつきだっていいじゃない、もっと自分に自信をもってよ。私を連れていったときのあなたはすごくカッコよかったのに……

 

  カオル、銃をもってヒカルを取り巻く尼僧や寮生ともども追い詰め、厨房の中まで追いやる。

  厨房の中からカオルの怒号が聞こえ、気押されて立ち尽くすマサル一行。

 

カオル でも、これまでよ! 馬鹿よ、あなたは! 私、もうなにをするかわからない!

尼僧A やめなさいカオルさん!

カオル 本当のお別れね。私をこんな目にあわせた罰を受ければいいんだわ!

 

  と、鳴り響く数発の銃声。

  厨房の中では尼僧と寮生がとっさに示しあわせて持っていたパーティーグッズのクラッカーを鳴らす。尼僧Aがヒカルの腕を力まかせにつねると、断末魔の叫び。寮生たちは、悲鳴をあげながら、はりきってトマトケチャップを壁や厨房の出入り口にまき散らす。

  それを見たマサル一行は完全に度を失う。

 

マサル ……なんという残忍な……

宮本 ……ボッチャン、殺人者をめとられては、お家の名に傷がつきます。

マサル 僕、腰が抜けちゃったよ。

宮本 しっかりなさってください。一刻も早くここを逃げ出さないと、まずいことになります。

 

  大慌てで逃げ出すマサル一行。

  それを見てあられもなく狂喜乱舞する尼僧、寮生たち。

  厨房の中から、あたかも婚礼の祝福を受けたかのようにクラッカーの紙テープにまみれたカオルとヒカルが寄り添うように現れる。

 

尼僧A ほら、新郎と新婦のおでましよ。

ヒカル カオル……ありがとう。なんだか吹っ切れたような気がするよ。

カオル もう、変な気起こしちゃだめだからね。

ヒカル ……俺、やっぱりカオルを愛してるよ。

カオル やっと、言ってくれた……

ヒカル もう絶対、きみを放したりしない。

カオル ……うん……今度は本当みたいね。(とヒカルの鼻を指でつついて)

 

  一同が口々に歓声をあげ、祝福されるカオル。

 

ヒカル (尼僧Aに)ありがとうございます ……そう、そう、これ(とポケットからオ カリナを出して)忘れ物じゃないですか? 泣き虫シスター。

尼僧A (気まずそうに)シーッ! 内緒よ。私の方もさっき裏庭でカオルさんが掘り返してたところで見つけたんだけど、あなたの名前が書いてある……

 

  と、錆びついた泉屋の缶を差し出す。

 

ヒカル カオルのやつ、こんなもの、まだ持ってたのかよ……

 

  ヒカル、缶の箱を開けると、中から無数の蝶が舞いあがる。

  一同、感嘆して見上げる。

 

ヒカル (カオルに)これからどうしようか。

カオル どうしようかって、お金もないし、とりあえずここにしばらく……

ヒカル そんなに厄介になるわけにはいかないし、金の心配はいらない。ほら(と札束を出して)ご祝儀がわりの置き土産だ。

カオル すごいじゃない。でもまあ、あんまり深く考えないで、ノンシャランと行こうよ。

 

  歌い、踊りはじめる一同。

 

(歌2)一同

♪ いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駈落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 

  向き合えば二人だけ

  愛しあっていたものを

  なのになぜ 引き離す

  駈け込む列車の

  行き先も知らずに

 

  いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駈落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 

  気がつけば一文無し

  振り向けば光る海

  だからもう もどれない

  焼けた砂踏みしめ

  足跡をあずけてゆく

 

  いまさらどこへ逃げるのと聞かれ

  答えもノンシャラン駈落ち道中

  ひまわりくらいの太陽の下で

  降参するにはまだ若すぎる

 


ノンシャラン駈落ち道中 002  駈落ち道中

 

 

  —幕—